少し前から「PickwickPaper」でも“A to Z”形式のものを書きたいな、と思っていたのですが、今までと違って一人で書くとなると、テーマなしではセレクトされた項目が片寄ってしまうし、書く方も選ぶ時に悩みそうな気がしていました。いろいろ考えているうちに、結局、選ぶのも書くのも簡単そうな“アメリカ文学の作家”にしてみました。今後も一年に一回くらいテーマを決めて書ければと思ってます。
当たり前のことだけれど、普段は作家の綴りを気にして本を読んでいるわけではないので、いざピックアップしようとすると、あるアルファベットは載せたい作家がたくさんいたり、別のアルファベットでは全然思いつかなくてアメリカ文学の本を調べてみたり、本屋に行って本を眺めたり、と結構大変でした。数年前まで読み終わった本を実家に送ってしまっていたが、失敗のもとでしたね。スペースと綴りの問題から“X”と“Z”は省きました。基本的には私が読んだ本の中から選んでいますが、一人だけ読んでいない本があります。この人の本を長田弘が翻訳をしていたのでこれは絶対いいだろうと・・・・。
こうやって全体を眺めていると、割とストレートなセレクトになってしまってますね。一つのアルファベットにつき一人の作家、という制約がやっぱりつらいですね。こればかりはしょうがないです。もともと限られたスペースなのに一つのアルファベットにたくさんの作家を集めたら、ほかのアルファベットが書けなくなってしまいますから。それを考えると、この形式はフリーペーパーでしかできません。ホームページだったら制限がないので、思いつくままのすべてを、あるいは調べるだけ調べて書くことになるので・・・・。
A:Anderson, Sherwood
シャーウッド・アンダーソン:1876年、オハイオ生まれ。「行進する人々」「貧乏白人」「いくつもの結婚」「卵の勝利」「物語作者の話」など。人間の不気味さや 当時の社会における工業化、合理化に落ちこぼれていく人々題材とした作品が多い。代表作の「ワインズバーグ・オハイオ」は発行当時は爆発的に売れることはありませんでしたが、その後、長い間読み続けられています。
B:Brautigan, Richard
リチャード・ブローディガン:1935年、ワシントン生まれ。「ビッグ・サーの南軍将軍」「ホークライン家の怪物」「バビロンを夢見て」など。50年代後半にサンフランシスコ、カリフォルニアに移り、ビートジェネレーションの作家たちに影響を受けます。60年代に「アメリカの鱒釣り」「西瓜糖の日々」などで人気を得たが、70年代からはモンタナで隠遁生活に入り、1984年10月に自殺。
C:Cheever, John
ジョン・チーヴァー:1912年、マサチューセッツ生まれ。「ワップショット家の人びと」「妻がヌードになる場合」「橋の上の天使」など。30年代より「ニューヨーカー」などの雑誌に数多くの短編を発表。70年代になると大学の教授をしたり、アル中が原因で作家活動はほとんどなくなってしまいますが、1978年にアメリカで「The Stories of John Cheever」が発売され再評価が高まりました。
D:Dick, Philip K.
フィリップ・K・ディック:1928年、シカゴ生まれ。「去年を待ちながら」「逆まわりの世界」「小さな場所で大騒ぎ」など。60年代、70年代を代表するSF作家。個人的には主人公が「そうだと思っていたものが」ひっくり返されることで、自我を失っていく感じが好きです。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか ? 」「戦争が終り世界の終りが始まった」など映画化された作品も多い。
E:Ellis, Bret Easton
ブレッド・イーストン・エリス:1964年、ロサンゼルスに生まれ。「ルールズ・オブ・アトラクション」「アメリカン・サイコ」など。デビュー作「レス・ザン・ゼロ」はジェイ・マキナニーらとともに“ゼロ・ジェネレーション”と言われる現象をおこしました。日本で言うと80年代後半から90年代始めに、20代を過ごした人たちが引きずっている何かと体現しているのではないか思う。
F:Fitzgerald, F. Scott
スコット・F・フィッツジェラルド:1896年、ミネソタ州生まれ。「美しく呪われた人々」「夜はやさし」「ラスト・タイクーン」など。1920年にデビュー作「楽園のこちら側」で成功し、「グレート・ギャッツビー」で20年代のジャズ・エイジを見事に描ききっている。妻ゼルダとの派手な生活を支えるために、多くの雑誌に短編を書き続けた。長編は未完のものが多いような気がします。
G:Gass, William H.
ウィリアム・ギャス、1924年ノース・ダコタ州生まれ。「アメリカの果ての果て」「ブルーについての哲学的考察」「オーメンセッターの幸運」「ウィリー・マスターズの孤独な妻」など。60年代後半から70年代にかけて登場したトマス・ピンチョンやボナルド・バーセルミといったポスト・モダンの作家の一人に位置します。ほかの作家に比べて翻訳されている著書が少ないのが残念です。
H:Hemingway, Ernest
アーネスト・ヘミングウェイ、1899年、イリノイ州生まれ。「持つと持たぬと」「日はまた昇る」「移動祝祭日」「海流の中の島々」「危険な夏」など。個人的にはおもしろい作品もあるがくだらないメロドラマのような作品も多い、という印象。基本的には自分で作り上げたしまった偶像としてのヘミングウェイを演じていない初期の頃か晩年(あるいは遺作)のヘミングウェイの作品が好き。
I:Irving, John Winslow
ジョン・W・アーヴィング:1942年、ニューハンプシャー州生まれ。「ウォーターメソッドマン」「ホテル・ニューハンプシャー」「サイダー・ハウス・ルール」など。1978年の「ガープの世界」がベストセラーとなり、アメリカの次世代を担う作家として注目される。悲しさの中で随所におかしさを醸し出したストーリーの巧みさ、プロットのうまさで、正攻法の小説の世界を描いている。
J:Randall Jarrell
ランダル・ジャレル:1914年、テネシー州生まれ。「ワシントン動物園の女」「はしれ!ショウガパンうさぎ」「詩のすきなコウモリの話」など。ノースカロライナ州の大学で教職に就きながら詩作を続け、議会図書館の顧問も務める。詩作のほかグリムやゲーテの翻訳も手がけ、また人間と動物たちとの共同生活を描く「陸にあがった人魚の話」など幼年のための童話も執筆しています。
K:Kerouac, Jack
ジャック・ケルアック:1922年、マサチューセッツ州生まれ。「地下街の人々」「荒涼天使たち」「禅ヒッピー」「ブルース詩集」など。友人たちとアメリカ大陸を疾走した実際の旅に基づいて書かれた1957年の「路上」(なんど読んでも分からない、改訳希望)で、アレン・ギンズバーグ、ニール・キャサディ、ウィリアム・バロウズなどとともにビートジェネレーションを代表する作家となる。
L:Lewis, Sinclair
シンクレア・ルイス:1885年、ミネソタ州生まれ。「本町通り」「ハビット」「エルマー・ガントリー」「It Can't Happen Here」など。医師の子として生まれますが、医師である父と兄に反発して作家になります。中西部を舞台として、鋭い観察力と徹底的に調査によってアメリカの世相を写実的な描写でえがいています。1930年にアメリカの文学者として最初のノーベル賞を受賞しました。
M:Millhauser, Steven
スティーヴン・ミルハウザー:1943年、ニューヨーク市生まれ。「エドウィン・マルハウス」「イン・ザ・ペニー・アーケード」「バーナム博物館」「三つの小さな王国」など。「Martin Dressler」でピュリッツァー賞を受賞しています。子供騙しな世界や偏狭な世界観を過剰に構築し、それを執拗に書き込む作家。それでも実験的・前衛的にはならず娯楽としての小説を成立させています。
N:Ogden Nash
オグデン・ナッシュ:1902年、ニューヨーク生まれ。30年代から40年代にかけて小説やユーモアのある詩、子供向けの絵本の原作など、「ニューヨーカー」誌を中心に幅広く活躍。「運転手さん、ここは何丁目?」「子猫」「三無クラブ」といった作品がアンソロジの中の一編として翻訳されています。また「Speak Low」といったミュージカルの挿入歌の作詞もしています。
O:O'Connor, Flannery
フラナリー・オコナー:1925年、ジョージア州生まれ。「賢い血」「烈しく攻むる者はこれを奪う」「善人はなかなかいない」など。「キリスト教の正教的立場から物を見る」作家。ストーリーはどれもシリアスで、何かの事件をきっかけに人物の内面に隠されていた本質みたいなものが剥き出されてしまう。結末の一点に向かって凝集していくストーリーの組み立て方が短編に合っています。
P:Pynchon, Thomas
トーマス・ピンチョン:1937年生まれ。「競売ナンバー49の叫び」「V.」「重力の虹」「スロー・ラーナー」「ヴァインランド」など。経歴などについては謎の作家。その作品の完成度の高さからピンチョンの作品はは複数の作家が集まって書いたもので、その一人はサリンジャーである、なんて一時期言われました。私は「スロー・ラーナー」ぐらいしか完読できてないんですけどね。
Q:Queen, Ellery
エラリー・クイーン:フレデリック・ダネイ(1905-82)と、従兄弟のマンフレッド・リー(1905-71)の共同ペンネーム。「緋文字」「災厄の町」「クイーン検察局」など。1929年、「ローマ帽子の謎」で大評判を得る。 その後「ギリシヤ棺の謎」「シャム双子の謎」などの“国名シリーズ”やBarnabyRoss名義の「・・・の悲劇」のシリーズを発表、推理作家としての地位を不動のものとした。
R:Robbins, Tom
トム・ロビンス:1936年、ノース・カロライナ生まれ。「香水ジルバ」「カウガール・ブルース」「Another Roadside Attraction」「Still-Life with Woodpecker」など。60年代終わりから70年代ポスト・モダン、メタフィクション的な小説を書いています。「カウガール・ブルース」は映画にもなったが(キアヌ・リーヴスも出演)、個人的には小説のおもしろさには到底およびませんでした。
S:Salinger, J.D.
J.D.サリンジャー:1919年、ニューヨーク生まれ。「ナインストーリーズ」「フラニーとゾーイ」「大工よ屋根の梁を高く上げよ」など。マンハッタンの有名高校を1年で退学し陸軍学校を卒業。40年に短編「若者たち」を発表。1951年に発表された「ライ麦畑でつかまえて」は現在でも売れ続けています。そのほかはグラス家7人兄弟姉妹の物語が多い。個人的には「倒錯の森」など初期の短編が好きです。
T:Theroux, Paul
ポール・セルー:1941年、マサチューセッツ州生まれ。「鉄道大バザール」「ワールズ・エンド」「Oゾーン」など。大学卒業後アフリカで英語の教師をしながら小説やエッセイを書き始めます。著作には「中国鉄道大旅行」「ポール・セローの大地中海旅行」など旅行記が多いです。「モスキート・コースト」はハリソン・フォード、リバーフェニックスというキャストで映画化されました。
U:Updike, John
ジョン・アップダイク:1932年、ペンシルヴァニア州生まれ。「同じひとつのドア」「走れウサギ」「ケンタウロス」「メイプル夫妻の物語」など。大学在学中から小説を掲載したニューヨーカー誌のスタッフとなり、「街の噂」欄を担当。作家生活に入った後も、同誌に多くの短編、詩、エッセイを発表ています。個人的には好きな作家ではない。息子のデヴィッド・アップダイクの方が好き。
V:Vonnegut, Mark
マーク・ヴォネガット:1947年、コネチカット州生まれ。「エデン特急―ヒッピーと狂気の記録」しか知りません。名前からも分かるように「スローターハウス5」などで有名なSF作家のカート・ヴォネガットの息子です。この本はハンター・S・トンプソンのの「ラスベガスをやっつけろ」とともに必読。グレイト3のファーストに「エデン特急」を見つけたときは、妙に納得しました。
W:Wolfe, Thomas
トマス・ウルフ:1900年、ノースカロライナ生まれ。「天使よ故郷を見よ」「時と河について」「死よ、誇り高き兄弟」「汝再び故郷に帰れず」など。言語学の教授として、ニューヨーク大学など幾つかの大学で教鞭をとった後、1929年に「天使よ故郷を見よ」でデビュー。フォークナーらとともにアメリカ南部の自然を豊かなイメージと特異な文体で、数多くの自伝小説、短編小説を残しています。
Y:Barry Yourgrau
バリーユアグロー:1949年、南アフリカ生まれ。「一人の男が飛行機から飛び降りる」「セックスの哀しみ」「Haunted Traveller」「Wearing Dad's Head」など。1959年にアメリカに移住、70年代から文芸誌など作品を発表し始め、80年代に入ってからは、シアターやクラブ、ラジオなどで自作のパフォーマンスを行っています。1989年には「シャドー・メーカーズ」という映画に出演もしています。