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女王陛下のワンダーランド(「WAVE」:15号1987年9月)

この本が手に入れたのは、大学に入ってすぐの頃だったから、多分1989年頃だったと思います。微かな記憶では伊勢佐木町のオデヲンビルにある先生堂で古本として買ったような気がします。
ちゅうどその頃、大学の近くのレンタルビデオ屋で「マックス・ヘッド・ルーム」(懐かしい!)や「サンダーバード」、「プリズナーNo.6」「モンティ・パイソン」などのテレビシリーズや、「バンデットQ」「バロン」「エリック・ザ・バイキング」といった映画のビデオを見つけて借りまくっていたので、ビデオを見ながら隅から隅まで何回も読んだ記憶があります。その後もフリーペーパーの記事を書くときに調べたり、結構重宝しました。
最近ではもうほとんどページを開くことはなくなってしまいましたが、これを書くに当たって読みなしたら結構おもしろくて、見てない作品などまた見たくなってしまいました。

表紙
このイギリス特集は、基本的に60年代に放映されたテレビシリーズを主としたイギリスの映像作品が中心になっています。そこからの膨らみとしてファッションがあり、SF、小説、スパイ、はたまた宗教やラグビーなどについても言及されています。なぜか「ブリティッシュ・ロック・フィルム・ガイド」を除いて、音楽についてはほとんど記述がありません。逆に音楽を削ったことで特集としての厚みが出ているような気はします。

個人的には、この本の目玉はなんといっても「プリズナーNo.6」全17話のストーリー紹介でした。まだビデオを見る前でもあったし、その後も見る機会もあまりない番組なので、実際に見なければ意味がないとは分かっているものの、こういう風にまとまっているのはとてもうれしい。
「プリズナーNo.6」は1967年にイギリスで放映されたTVシリーズで、日本では1969年に放送されています。TVシリーズ「秘密指令」(1959)で頭角を現したパトリック・マグクーハンが脚本、監督、主演、ときには製作を担当しました。マグクーハンがその前に手がけた「秘密諜報員ジョン・ドレイク」(1964)は、当時の娯楽中心のスパイ映画(「007シリーズ」「ナポレオン・ソロ」など)とは違い、NATOの保安課員であるドレイクが、西側の利益のために罠や二重スパイなど何も信用できない状況で、アイデンティティを失いそうになりながらも使命をまっとうするというストーリーでした。
「プリズナーNo.6」ではそれをさらに押し進め、束縛された中でアイデンティティを略奪された中から、自由を取り戻そうとします。そしてラストでもさまざまな謎は解明されず、それらの“解答”は見る者に委ねられます。こうした“謎”や“問いかけ”がこのTVシリーズを、ただのスパイ映画以上の普遍的なものにしています。

60年代のイギリスを代表するTVシリーズとして、もう一つ挙げられるのが「サンダー・バード」です。イギリスでの放映は1964年から1966年。私はリアルタイムで日本の放送を見た記憶はないのだけれど、幼稚園ぐらいのころおもちゃで遊んだ記憶はあるので、再放送を見ていたのかもしれません。
「サンダー・バード」の特集は、メカを中心に書かれています。しかし一方で番組を製作したAPフィルム・プロダクションの紹介や、女性キャラをウーマン・リブの関係でとらえたり、といったことにも言及されています。

そしてメカと言えば「007シリーズ」(この辺の流れは気持ちいいですね)。もちろん007も小道具などの秘密兵器や車といったメカはもちろん、テレンス・ヤング、ガイ・ハミルトン、ピーター・ハントといった007を監督した映画監督について特集してます。また今では番組は見ることはできないけれど、メインテーマやサントラは手軽に聴けるようになった「電撃フリント」「それいけスマート」「サイレンサー」などのスパイ映画、1999年にリメイクされた「アベンジャーズ」などについてまとめてあるのもうれしい。

モンティ・パイソンは今じゃさまざまな本が出版されているのですが、そういった本をまめに見るという気にもなかなかなれないので、結局見るのはこういう本になってしまってます。
コンパクトながらモンティ・パイソンのメンバー紹介から、結成の経緯、アメリカや日本のコメディ番組との比較、当時のBBCの状況、番組終了後のメンバーの活動、そして全作品リストまで載っていてなかなか便利ではあります。もちろんここでもラットルズやニール・イニスなどの音楽ネタにはふれていません。この辺はやはり「レコードコレクターズ」の“モンティ・パイソン特集”を読むべきですね。

こうした大きな特集に挟まれてスパイスときかせているのが、J.G.バラードの「内宇宙への道はどれか?」を中心とした、アメリカのSFに対するイギリスからの返答でもある“ニューウェーヴSF”だったり、ジョセフ・ロージー、フランソワ・トリフォーが、60年代にイギリスで撮った映画(それぞれ「唇からナイフ」「華氏451」)の特異な風景についてです。
特に音楽関係の特集がない中で、「ブリティッシュ・ロック・フィルム・ガイド」はつい何回も読み返してしまいます。クリフ・リチャードの「若さでぶつかれ」(1961)から、ビートルズの「ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!」(1964)「Help!」(1965)をきっかけとしたリバプールサウンドたちによる映画、60年代後半の雰囲気を映し出した「欲望」(1966)「茂みの中の欲望」(1967)など60年代の映画を大きく取り上げながら、70年代としてはニコラス・ローグが監督し、ミック・ジャガーが主演の「パフォーマンス(1970)」、ケン・ラッセルによるフーのロック・オペラ「トミー」(1975)を中心に、デビッド・ボウィの「地球に落ちてきた男」(1976)やリンゴ・スターの「ボーン・トゥ・ブギ」など挟みつつ、「グレート・ロックンロール・スウィンドル」(1979)、デレク・ジャーマンがアダム・アントを撮った「ジュビリー」(1977)、「ルード・ボーイ」(1980)などのパンク・ニューウェイヴ期、そして「シド&ナンシー」(1986)「レポマン」(1984)「ビギナーズ」(1985)といった80年代の映画までをも俯瞰しており、ほんとはこれだけで一冊本ができる内容。

それから巻末に添えられたような「60年代イギリス小説」や「イギリス宗教運動」「ブリティッシュ・ユーモアCM」についての記事が、実はあとから読み返すとおもしろかったりします。そういう雑誌って以外と多いような気がしませんか?

目次より(抜粋)

60年代の英国ファッションとニッポンの若者たち
ニューウェーヴSFのパースペクティヴ
イギリス人パトリック・マクグーハンの証明「プリズナーNo.6」
スーパー・マリオネーション「サンダーバード」
サンダーバードのスーパー・メカ
60年代の未来社会
スーパー・マリオネーション
女王陛下の007
007の監督たち
007のファンタスティック・メカ
60年代を席巻したスーパー・スパイ達
アベンジャーズ
異化としての風景 −ロンドン・シックスティーズ−
モンティ・パイソン、究極のブラックユーモア集団
モンティ・パイソン・アンド・ナウ
モンティ・パイソンの空飛ぶサーカスとそのアクロバット
馬なき騎士が荒地を行く
ブリティッシュ・シニシズム
ブリティッシュ・ユーモアCM
意味に風穴 −60年代のキャロル・リヴァイヴァル−
不条理と魔術リアリズム−60年代イギリス小説−
変革の光と闇 −イギリス宗教運動の裏面−
ブリティッシュ・ロック・フィルム・ガイド
イギリス現代美術の英国性
王様は競馬が好き
英国とラグビー


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