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「アメリカン ストーリーズ −その1−」


「ニューヨーカー短編集」 −V.A.−
このコーナーは自分の好きなアメリカの小説について書いてみようという単純な主旨で始めたのですが、一応はじめた当初、100册取り上げられればいいな、という目標がありました。それから1年8カ月、この本で100册目。この「ニューヨーカー短編集」を100册目にしようと思ったのはいつ頃だったのか忘れれてしまったけれど、かなり前から決めていました。

私がこの本を読んだのは、高校2年の時でちょうど常盤新平のエッセイに入れ込んでいた事期でした。平塚駅から高校までの通学路にあった古本屋で、3冊3800円。当時の私としてはかなり贅沢な本の買い方で、意志が固まるまで学校帰りには毎日その本屋に寄って買われていないかチェックしてました。といっても駅から高校までの間には4軒ぐらいの古本屋があってほとんど毎日学校帰りに立ち寄ってましたが‥‥
さてこの本は、1925年に創刊された雑誌「ニューヨーカー」に掲載された短編小説を3巻に分けて収録したものです。収録されている作家、アメリカ文学史に欠くことのできない重要な作家から、アメリカ文学を学んでいる人や好きな人しか知らないような作家、そしてまったく無名と思われる(もちろん私が知らないだけだけどね)作家など幅広く、ある意味でアメリカ文学全体を俯瞰できるといえるのではないでしょうか。
この本が、以後の私の読書の趣味を形づけたという一面があるのは事実だけれど、この本に収録されている作家の経歴をひとつひとつ調べて、その作家の作品を読んでいくような、細かいきちんとした作業ができればもう少し違った人生を送っていたのだろうなぁ、と思いますね。


「口に出せない習慣、不自然な行為」 −ドナルド・バーセルミ−
このコーナーを始めた当初からドナルド・バーセルミの作品は載せなくちゃなぁ、と思っていたのですが、実際どれにするべきかというときになると、私自身この作品と「アマチュアたち」「パラダイス」の3册しか読んでいないこともあり、決められないでいました。そんな感じで少なくてもあと「罪深き愉しみ」「死父」「雪白姫」の3冊を読んでから決めようと思っているうちに、すでに目標だった100が近づいてきてしまいました。

ただこのコーナーを続けているうちに、まずだんだんと、言葉遊びやストーリーのないコラージュ、現実と非現実が入り交じるような小説に疲れてきて、それよりもやはりもっと一見穏やかではあるけれどその裏に微かに何か狂気みたいなものが秘められて入るような小説に惹かれてくるという時期があり、その後、最近では、アメリカの小説自体にそれほど興味がなくなってきてしまう感じです。(特に何に影響を受けたということも、何が変わったということもないけれど、ある意味911の影響は大きいと思う。あの事件によって、割とおぼろげながらであるけれど、アメリカの文化とアメリカの政治や思想というものを考え直すことになったと思います)それはここの更新が以前より頻繁出なくなってしまったということに繋がってますね。

なんてことを書いてごまかして終わりにしてみたりして‥‥


「甘いささやき」 −ステファニー・ヴォーン−
ステファニー・ヴォーンは、1945年オハイオ州生まれ、オハイオ大学を卒業後、創作教育で有名なアイオワ大学で学び、その後、レイモンド・カーヴァーやトバイアス・ウルフなどの作家も受けたスタンフォード大学のウォレス・ステグナー創作学フェローシップという奨学制度を受けています。1990年の中ごろはコ−ネル大学で創作法を教えていたそうです。確かにそうした経歴を裏付けるようにこの短編集に収められている作品はどれも、無駄な言葉がなく熟考されているなぁと思われる言葉が選ばれていますし、過去と現在の話を交差させるたり、といった技法が効果的に使われています。ただしそうした技法が表面に強く出ることがなく、あくまでストーリーや人物の描写を作品の中心においていますが‥‥。

さて、1977年にオーヘンリー賞を受賞した「エイブル、ベーカー、チャーリー、ドッグ」、そして1982年、1986年に同賞を受賞した「甘いささやき」「マッカーサー坊や」といった作品を収録したステファニー・ヴォーンの処女作であり、多分唯一の短編集。陸軍将校であった父親の転勤でフィリピン、フォート・ナイアガラ、オクラホマ、イタリアといった各地の米軍基地で過ごした経験がもとに彼女自身の家族を題材とした作品を中心にまとめられています。特に父親の性格や行動に関する描写が素晴らしく、主人公の愛情や畏敬、そして反発などが入り交じった父親に対する気持ちの描写を相まって、全体的には家族を巡るどちらか言えば静かな、そして中流階級的なストーリーではあるけれど、心に残る作品となっています。


「グランドセントラル駅・冬」 −リー・ストリンガー−
リー・ストリンガーは、ニューヨークのブロンクスの白人裕福層が暮らすカウンティで生まれた黒人で、ダラスやデトロイトののテレビ局のカメラマンを2年間勤めたのち、ニューヨークに出てセールスマンや映画の音響係りなどさまざまな職業についています。
中でもグラフィックデザイナーとしては、仲間とデザイン事務所を設立しCBSソニーなどのクライアントを持つなどかなり成功していたようですが、兄や父親などの死をきっかけにドラッグに手を染めるようになり、やがては仕事も住居も失い、80年代半ばから12年間、ニューヨークの地下鉄でホームレスとして過ごします。この本は、その12年間の生活をもとにして書かれています。

といっても、この本は、例えば、彼の生活の告白でもなければ、ホームレスに関して世の中に何かを主張するようなものでもありません。もちろん、実際の経験が元になっていることは確かで、書かれていることのほとんどは実際に彼が経験したことや彼の周りの人々が経験したこと、だと思います。でも一つ一つのストーリーをさまざまな角度からとらえられていて、しかもそれにあった文体が注意深く選ばれているので、この種のテーマを題材にした良くある本と違って、何かを押し付けられているという感じはしません。この本の次の作品として、彼はまた自分の経験をもとにしたノンフィクションを出版しているようですが(多分未訳)、個人的には、個人的な経験をもとにしたものではないテーマの小説を読んでみたいですね。そう思わせるほど彼の文章はおもしろいです。
ちなみになぜか序文をカート・ヴォネガットが書いていて、ストリンガーとヴォネガットが執筆について語り合っている対談集も出ているらしいです。


「ドッグ・ストーリーズ」 −ジーン・シントウ編−
タイトルが示すように「犬にまつわる物語」を34編まとめた本で、文庫では上下巻に別れていて、上巻ではオーストラリア、カナダ、イギリス、そしてアメリカと英語圏の作家が収録されていて、下巻ではアメリカの作家が中心になっています。
収録されている作家は、T・コラゲッサン・ボイル、マディソン・スマート・ベル、ステファニー・ヴォーン、トバイアス・ウルフ、レイモンド・カーヴァー、マーク・ストランド、アン・ビーティ、ドナルド・バーセルミ‥‥と、「犬にまつわる」ということを抜きにして1980年代を代表する作家のアンソロジィとしてもよい本なのではないかと思います。そういう意味で犬好きな人はもちろん、アメリカの小説を読み始めたばかりの人、ひと通りいろんな小説を読んでみた後にもう一度振り返るという感じでも楽しめるんじゃないかな。勝手にいってますが。

ところで私がこの本の存在を知ったのは、実は1年くらい前のことでそのとき既に絶版となっていました。私は毎月新刊をチェックしているわけではないけれど(というかほとんどしてないけど)、1994年にいつの間にか出版されていて、それほど注目されずに絶版になっているっというのは、この本がいい本だけにちょっと寂しい気持ちです。もう少しどこかで取り上げられたり話題になっていい本だと思うのですけどね。
アメリカ文学だけでなく翻訳小説が売れなくなって、文庫化される本がほとんどなく、単行本は2000円、3000円してしまうという現在、こういう本が文庫で手軽に読めるということの重要性は大きいんじゃないかな。なんて、適当なこといってます。
といっても見つけようと思えば、ブックオフとかの量販店的な古本屋に安く売っているので、こまめにチェックすれば100円で手に入ります。ということは、実は結構売れた本なのだろうか。


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